NETFLIXで配信中の韓国ドラマ 「暴君のシェフ」。
本作は、ミシュランのレストランで働くフレンチシェフの ヨン・ジヨン(イム・ユナ) が、朝鮮時代にタイムスリップし、暴君として名を刻む 王イ・ホン と出会うことで繰り広げられるファンタジーロマンスです。
舞台は朝鮮王朝時代。一見すると歴史物のように見えますが、主人公が500年前にタイムスリップして マカロンやバタービビンバ、パスタ を振る舞うなど、斬新でファンタジーに富んだ設定になっています。
さらに、この作品に登場する人物の多くが 朝鮮王朝時代の実在人物をモチーフ にしていることをご存じでしょうか。もちろん、歴史を完全に再現した作品ではなく、「モチーフ」という点がポイントです。だからこそ物語の先が読めず、また、それぞれのモチーフとなった人物を知ると、作品をより一層楽しめます。
また、このドラマの舞台となった 朝鮮王朝時代は、王位争いや権力闘争、政治的陰謀などが数多く起こった波乱に満ちた時代 です。単なる背景としてではなく、登場人物たちのドラマや行動をより面白くしている歴史的舞台でもあります。この記事を通して、朝鮮王朝の激動の時代についても知るきっかけになるでしょう。
そこで本記事では、
朝鮮王朝時代の実在人物をモデルにした 「暴君のシェフ」の登場人物と実在人物がどのような人であったのか
を整理してご紹介します。
この記事を通して、「暴君のシェフ」をもっと楽しみながら観れると同時に、朝鮮時代への興味も湧くことでしょう。
※一部ネタバレを含みます。
「暴君のシェフ」の登場人物とモチーフとなった歴史上人物
イ・ホンー燕山君

作中で国を支配する作品名にもなる暴君と言われたイ・チェミンが演じるイ・ホン。
このイ・ホンのモチーフとなった歴史上人物は、朝鮮王朝第10代国王・燕山君(ヨンサングン、在位:1494年~1506年)。この燕山君は朝鮮王朝史上前例のない暴君と言われいてる人物です。
燕山君(ヨンサングン)とは
朝鮮王朝第10代の王で、在位は1494年から1506年まで。幼少期に母の端敬王后が廃妃となり亡くなった経験から、深い恨みと悲しみを抱えて成長。この背景が、即位後の極端な暴政につながります。
在位中、燕山君は権力を握ると残虐な政治を行い、多くの官僚や学者を弾圧しました。甲子士禍などの事件では、忠臣や反対勢力が徹底的に粛清され、その暴君ぶりは朝鮮史に強く刻まれています。贅沢や遊興に没頭したことでも知られ、民の暮らしを顧みない統治が続き、1506年、臣下によるクーデター(中宗反正)によって退位・追放され、30歳で生涯を閉じました。
燕山君は3度にわたって功臣に対する粛清事件を起こして母の死に関連した人物をもろとも殺していたり、また最高学府の成均館を妓生らとの遊興の場に変えたりととにかくやりたい放題。まさしく「暴君」です。
また作中で描かれる母の死についてもこの燕山君に通ずるものがあります。
カン・モクジュー張緑水

作中で暴君イ・ホンの側室であるカン・ハナが演じるカン・モクジュ。
側室として華やかな美貌を持ちながら、実際には黒幕のスパイとして様々な悪事を働く悪女として作中では描かれています。
このカン・モクジュのモチーフとなった歴史上人物は、暴君イ・ホンのモチーフとなった燕山君に寵愛された後宮である張緑水(チャン・ノクス、?〜1506年)。
張緑水(チャン・ノクス)とは
張緑水(?~1506年)は、燕山君に寵愛された女性で、後宮で淑媛・淑容に封じられた。童顔で30歳を過ぎても十代の娘のように見え、燕山君を赤ん坊扱いして幼児語で接したという。王の寵愛を背景に権力を濫用し、実の姉とその息子の身分を平民に引き上げ、私邸建設の際には民家を破壊。側近への横暴や臣下への侮辱、妓生の死に関与する事件もあり、燕山君の悪政とあいまって民衆の憎悪の対象となった。燕山君の廃位後、張緑水も処罰された。
張緑水は朝鮮三大悪女のひとりと数えられている人物で、まさしく作中で描かれる悪女そのもの。
また作中でカン・モクジュは妓女であったところをジェサン大君(チェ・ギファ)に引き入れられて側室になったという設定でありますが、張緑水も、非常に貧しい生まれで歌舞を学び妓生となったところを噂を聞いた燕山君が後宮に迎えたといわれています。
ジェサン大君ー晋城大君

作中で暴君イ・ホンの叔父として登場するチェ・ギファが演じるジェサン大君。
作中では気さくで人当たりがよい人物に見えるが、実は裏では極悪非道なことをし、虎視眈々とイ・ホンへ反旗を翻す機会を伺っているというこの物語の最悪の黒幕です。
このジェサン大君のモチーフとなった歴史上人物は、暴君である燕山君の異母弟である晋城大君(チンソンデグン、1491年~1545年)。
晋城大君(チンソンデグン)とは
晋城大君(チンソンデグン、李祐、1491~1545年)は、朝鮮王朝中期の王族で燕山君の異母弟。幼少期から兄の暴政や宮廷内の粛清を経験し、身を慎んで目立たぬよう行動したとされる。表向きは無能を装ったが、実際には有能で、後に中宗の父として王位継承に関わる重要な地位を占めた。権力闘争の中で生き残るため、慎重な態度と策略を用い、宮廷内での地位を維持した王族である。
晋城大君は、愚かで大馬鹿者として知られていましたが、実際には燕山君の粛清から身を守るための演技だったといわれています。作中でジェサン大君は、表向きはふざけたキャラクターとして描かれましたが、唐辛子粉を明に渡してしまったり、薬を間違えたりするシーンがあります。晋城大君は実際には悪事を働いたわけではないですが、この作品では有能さを隠しているという晋城大君をモチーフに実はそれは全て策略で、クーデターの機会を伺うキャラクターとして描かれています。
イム・スンジェーイム・スンジェ

作中で暴君イ・ホンと主従関係にある奸臣として登場するオ・ウィシクが演じるイム・スンジェ。
作中では暴君イ・ホンの家臣、そしてシェフであるヨン・ジヨン(ユナ)にも協力する人物として描かれています。
このイム・スンジェのモチーフとなった歴史上人物は、暴君燕山君の寵臣であったイム・スンジェ(1491年~1545年)。
イム・スンジェとは
イム・スンジェ(林崇宰、?~1515年)は、朝鮮王朝中期の官僚で、燕山君の寵臣として権力を握った奸臣である。中枢府事として宮廷内の実務を掌握し、燕山君の暴政を助長した。美女の強制召集や功臣への圧迫など横暴を行い、王の寵愛を独占する策略を巡らせた。これにより宮廷内外の権力闘争を激化させ、民衆や士大夫からも憎悪された。『中宗実録』では「千古に冠たる奸臣」と記され、燕山君廃位と中宗即位の背景に深く関与した人物とされる。
作中と同じく王に仕える奸臣であり、名前も同じことからこの人物がモチーフになったことがわかります。
このイム・スンジェは暴君である燕山君の暴政を利用して権力を振るい、燕山君と共に悪名高き人物であるという説もありますが諸説あり、詳細な実態は明らかでない人物です。
コンギルーコンギル

作中で謎の人物であり道化師として登場するイ・ジュアン演じるコンギル。
このコンギルのモチーフとなった歴史上人物は、暴君燕山君の時代に宮廷で活動していた道化師コンギル(出自不明)。
コンギルとは
コンギル(孔吉)は、朝鮮王朝時代の道化師で、燕山君の治世下に活動した人物。宮廷で王や貴族に娯楽を提供すると同時に、政治的風刺や批判を行う役割を果たした。『朝鮮王朝実録』には、劇の中で「君主は君主らしくあるべきだ」と述べたため不敬とされ、杖打ちの罰を受け遠方に流刑された記録があり、燕山君の暴政を象徴するものとして知られている。娯楽を通じて権力者の行動を映し出し、宮廷内外の政治的状況を象徴的に示す存在であった。
作中では暴君イ・ホンと何らかの関係がある謎の人物として描かれていますが、実際歴史上のコンギルについては朝鮮王朝実録の燕山君日記に登場したのみで情報が少ない謎の人物です。
インジュ大王大妃ー仁粋大妃

作中で暴君イ・ホンの祖母でありイ・ホンの母の死の秘密を握っている人物として描かれているソ・イスク演じるインジュ大王大妃。
このインジュ大王大妃のモチーフとなった歴史上人物は、第9代国王成宗の生母であり暴君燕山君の祖母である仁粋大妃(インステビ、1510年~1578年)。
仁粋大妃(インステビ)とは
仁粋大妃(インソデビ、1510~1578年)は、李氏朝鮮第9代国王成宗の生母。燕山君が即位すると大王大妃に昇格した。王朝内での権力調整や政治的安定に寄与したとされており、朝鮮史における稀有の女傑、もしくは鉄の女として知られる。成宗の2番目の王妃であった尹氏(燕山の母)と対立し、嫉妬深いことを理由に尹氏を廃位させ死に追いやった。これが燕山君による大規模粛清事件(甲子士禍)を引き起こす原因となり、燕山君と対立を深めて権力の座から追われる身となり、燕山君からの苛烈な虐待を受け、68歳で薨去した。
作中でも、大王大妃として宮廷内で大きな権力を持ち、母の死に関わる秘密を握る役どころは、史実の仁粋大妃のの一面と通じています。
まとめ
この記事では、ドラマ『暴君のシェフ』の登場人物と、そのモデルとなった朝鮮王朝時代の実在人物について整理してご紹介しました。
歴史的事実をもとにしたキャラクター設定を知ることで、物語の背景や人物の行動がより深く理解でき、ドラマの面白さも一層増します。
またこの燕山君の生きた激動の朝鮮時代にも興味が湧いてきます。